【RPE】★台湾総統選と、習近平が台湾侵攻を決断する条件

ロシア政治経済ジャーナルNo.2581  2024/1/14

 

全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!

北野です。


台湾で1月13日、総統選挙が行われました。

結果は、


民進党の頼清徳さん 558万6019票

・国民党の侯友宜さん 467万1021票

・民衆党の柯文哲さん 369万466票


で頼さんが当選しました。

この結果について、二つポイントがあります。

まず、


民進党の頼清徳さんは親米。

国民党の侯友宜さん 、民衆党の柯文哲さん は親中。


親米の候補は一人、親中の候補は二人。

それで親中票が二つに分かれて勝てなかった。

親中派のお二人は昨年11月、「候補者を一本化しよう」と
協議しました。

しかし、どちらが総統候補になるかで合意できず、一本化
できなかったのです。


もう一つのポイントは、「安全保障=命」と「金」の戦い
です。


民進党の頼清徳さんは、有名な「台湾独立派」です。

もちろん「いますぐ独立宣言を」というほど過激ではあり
ません。

現状を維持していくということです。


一方、国民党の侯友宜さんは、「中国との経済交流を活発
化させて、豊かになろう」という考え方です。


民進党の頼清徳さんは、「中国から台湾を守ろう」。

つまり、メインは「安全保障=命」です。


一方、国民党の侯友宜さんは、「中国と仲よくして儲けよ
う」。

つまり、メインは「経済=金儲け」です。


台湾国民は、「金か命か?」と問われ、冷静に「命です」
と答えた。


民進党の頼清徳さんは、親米なだけでなく親日です。

親米、親日の総統が誕生して、私たちにとっては「めでた
い」ということでしょう。

昨日のニュースを見て、ホッとしました。



習近平が台湾に侵攻する条件



ところが、喜んでばかりもいられません。

習近平は、「自分の代で台湾を統一する」と決意していま
す。

別に武力によって統一する必要はない。

できれば工作によって親中派を増やし、


住民投票によって平和的統一を実現したい」


という感じにしたいのでしょう。

習近平は、国民党の侯友宜さんに勝ってもらい、彼を通し
てさまざまな工作を行っていく計画だったのでしょう。

しかし、侯友宜さんは負けました。


そして、勝った民進党の頼清徳さんは、明らかに「独立派
」。

親中派で知られる馬英九元総統(国民党)は1月12日付
朝鮮日報』で以下のように語っています。



〈−頼清徳候補は記者会見で、「台湾は既に主権も持つ独
立国家なので、『独立宣言』は必要ない」と述べた。

「頼候補は骨の髄まで台湾独立を追求しているが、今の状
況では『台湾独立』(宣言)が戦争を意味することを知っ
ているので、発言に気をつけている」

−頼候補は完全な台湾独立主義者だと思うか。

「長い間見守ってきたがそうだ。台湾独立に対する強い意
志を何度も強調し、大陸(中国)は既に頼清徳を『救いよ
うのない独立主義者』と評価している」〉
ーー


「救いようのない独立主義者」だそうです。


私たちからすると、「えらい人物だ!」となるのですが。

あまり頼清徳さんが突っ走ると台湾有事の可能性が高まり
ます。


「台湾有事」


これは、どういう条件下で起こり得るのでしょうか?

二つあります。

一つは、「台湾に侵攻するしか選択肢がない」場合。

どういうことでしょうか?

たとえば頼清徳さんが、「台湾独立」を宣言した。

すると習近平は、軍隊を派遣して台湾独立を阻止するしか
選択肢がなくなります。

だから、頼清徳さんに独立宣言してほしくありません。

間違いなく戦争になるからです。

それより、現状を維持していれば、中国は勝手に衰退して
いき、独立のチャンスが訪れるでしょう。


もう一つは、習近平が「勝てる!」と確信したときです。

中国の戦略文化を見ると、それほど好戦的とは言えません。

「第2次チェチェン戦争」
「ロシアーグルジア戦争」
「シリア内戦介入」
「クリミア併合」
ウクライナ内戦介入」
ウクライナ侵略」

など戦争によって人気を維持してきたプーチンとは違いま
す。

中国の顕著な特徴は、「弱い者いじめをする」こと。

たとえば、安倍政権誕生前の日本やフィリピンなど。

そして、遵法意識がほとんどなく、他国の領土でも平気で
「古来から我が国の領土だ」などと主張します。

たとえば、尖閣だけでなく沖縄の領有権も主張しているこ
と。

たとえば、十段線主張。(九段線がいきなり増えた。)

https://www.sankei.com/article/20230901-KKKY4I7NJVI3RKGFEFM7234BCQ/

このように中国には、「強い相手とガチで戦って打ち負か
そう」という戦略文化はありません。

むしろ、「弱い相手から搾り取ろう」という極めて「ジャ
イアン的」国なのです。

だから、「台湾に侵攻して勝てる!」いう確信がなければ、
侵攻しないでしょう。

では、なぜ習近平は、「台湾に侵攻して勝てる!」と確信
できないのでしょうか?

もちろん、台湾の後ろにアメリカがいるからです。


ところが、そのアメリカが困った状態になっています。

アメリカは今、「ロシアーウクライナ戦争」でウクライナ
を支援している。

そして「イスラエルハマス戦争」でイスラエルを支援し
ている。

しかもこの戦争は、レバノンヒズボラ、イエメンのフー
シ派、ハマスの黒幕イランなどもかかわって、大きな戦争
になりそうです。

(@ここでは詳しく話しませんが、アメリカ、イスラエル
の目標は、イランの核兵器製造施設を破壊することです。)

そう、アメリカは今、「二正面作戦」を強いられている。


習近平は思うでしょう。


アメリカは、ロシア、(ハマスのボス)イランと戦って
いる。
台湾に侵攻したら勝てるのではないか????」」


と。

それでも台湾総裁選までは、


「国民党の侯友宜を勝たせ、彼を通して、工作をしていこ
う。
欧米からもあまり文句を言われないよう、住民投票を実施
して、平和裏に統一を果たそう」


と考えていたかもしれない。

しかし、独立派の頼清徳さんが勝利したことで、


「う〜む。
穏便に統一するのは難しそうだぞ。
台湾に侵攻するか・・・」


と悩んいるかもしれません。



▼2024年最大のテーマは「台湾侵攻」を起こさせないこと



アメリカも欧州も日本も、習近平の考えは理解しています。

それで、欧米、日本、オーストラリア、韓国などは最近、
中国への態度をやわらげ、和解路線に転じています。


「欧米日と仲よくすれば、儲かるよ。

でも、台湾に侵攻すれば、世界GDPの半分を占める欧米日
から制裁されて経済ボロボロになるよ」と。


これが台湾侵攻を阻止する一つの作戦です。

もう一つは、習近平に、「台湾に侵攻しても必ず勝てる」
と思わせないことです。

だからバイデンはこれまで、「台湾有事の際にはアメリ
が台湾を守る!」と3回断言しました。

『ロイター』2022年9月19日。


〈バイデン米大統領は18日に放映されたCBSの番組の
インタビューで、中国が侵攻した場合、米軍は台湾を防衛
すると言明した。台湾有事の際の対応に関してこれまでで
最も明確な発言で、中国は米国に対し「厳重な抗議」を行
ったと表明した。〉
ーー


実際にアメリカがどう動くか、起こってみなければわかり
ません。

しかし、バイデンが「アメリカが台湾を防衛する」と断言
したことは、習近平を躊躇させるでしょう。

「本当に米軍が出てくるかもしれない」と考えるからです。


さらに、麻生さんは昨年8月、こんな発言をしています。


〈「今ほど日本、台湾、アメリカをはじめとした有志の国
々に非常に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている
時代はないのではないか。

戦う覚悟だ。

いざとなったら、台湾の防衛のために防衛力を使うという
明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」〉
ーー


つまり、台湾有事の際、日本の自衛隊が台湾を守るために
戦うと言っているのです。

実際にどうなるかはわかりません。

しかし、習近平は、「台湾に侵攻したら日本の自衛隊も出
てくるのか・・・」と思うでしょう。

それで、侵攻を躊躇するのです。


というわけで日本、アメリカ、欧州、オーストラリアなど
は今年、

「アメ」と「ムチ」の二つで、


習近平が台湾侵攻を決断しないよう、働きかけていきます。

これが日本と欧米、今年最大のテーマです。


台湾有事なしで今年を乗り切ることができれば、

年末に「いい年だった」と言えるでしょう。

そうなることを祈ります。