「公益」資本主義 (文春新書)のアマゾンの書評

kazuma
日本の現実から乖離した提言本、原丈人は二世上がりの世間知らずか、悪意あるロビイスト


まず岸田総理のブレーンであるという話だったので読んでみた次第であり。
アメリカ資本主義の問題点については概ね筆者と同じ考えではありますが、この本にはいくつかの問題点がありますが、大きく3つに分けて切り込んでいきます。

まず一言申し上げておきたいのは、読んでみた際、思ったほど酷くないと感じる部分もあったところです。
特に著者の投資家としての考え方、中長期的な視野での投資に関する考え方には共感すら覚えました。
最近米国株に投資を始めた方には
ぜひともアップルとマイクロソフトのバランスシートなども見て頂きたいところです。
これらのIT企業の資本は自社株買いなどに充てられており、PBRは20倍ほどになっています。
これはすなわち、何らかの大きな破壊的イノベーションが起こり、かつてガラケーが辿った末路の様にiPhoneなどが別のデバイスに急速にとって変わられた場合
株価は瞬時に1/20になってもおかしくないということを示唆しています。
実際アップルはジョブズが死んだ時に革新的な会社として死に、代わりにアクティビストや大口投資家の操り人形になってしまったのかもしれません。
ただ、良かった点は原氏を投資家として捉えた場合の話です。

政策立案者である原氏の考え方に対しては批判的に捉えさせていただきます。

まず1つ目に肝心の解決策が明らかに内容不足であるということ

株主資本主義にせよ国家資本主義にせよこれらにはそもそも格差を拡大させる性質があります。ツイッターでもインスタグラムでもインフルエンサーがその他大勢を影響力において駆逐しています。
従って富めるものはますます富み貧しいものはますますというマタイの福音書にもあるようなことが起きます。
でも、それはそこそこの頭の人なら誰しもが理解しています。
そして政治経済その他あらゆることで
パワーバランスが一極化してしまう。
資本主義であれば資本家に帝国主義であれば国家に徐々に誰も逆らえなくなります。
YouTuberなら再生回数と視聴率が全てといった様にです。
そして日本は官僚主義大きな政府に誰も逆らえません。
そして大昔ならそれが大抵は戦争か革命もしくは文明の停滞の上での侵略などで一つの国が滅びて来ました。
それが繰り返し起きています。それが歴史です。世界史を見れば、大体似たようなことが起きています。
このパワーバランスを調整することこそが、持続可能性な会社や世界を作るのに大切なのだと、いわゆる公益資本主義の理想図なのだとするならば、それは誰しもが望むところでしょう。

ですがこの本に書かれている提言では全然パンチに欠けていて、何がやりたいのかわかりません。
こっそり自分のポジショントーク的なところを混ぜているのも悪い点です。
保有期間に応じて税率を変えるのは良いと思いますが、四半期決算を止めるやストックオプションの廃止保有期間において株主の権限を変えるなどは意味不明です。
従業員にボーナスにしても、それは民間企業が決めるべきであり、国が直接口出しするのは間違いのように思います。
特にバイオ系のベンチャーを誘致する下りなどは完全に原氏個人のポジショントークでしょう。

それにバランス調整の行為はそもそも大変な困難を伴うものです。
フランスでは王族が全員ギロチンで毎日処刑される様な出来事でようやくバランスの修正が起きましたし、世界の帝国主義は欧州が焦土と化し広島と長崎の原爆に代表される人類の文明を滅ぼすレベルの兵器が完成されたことによってようやく目を覚ましました。
一方でみんな平等にをスローガンに掲げた共産主義毛沢東は1000万人を超える餓死者を出して失脚しました。
だからみんな思い悩みながらも、様々な議論を賛成派と反対派を交えながらぶつけているのですが、画期的な答えは世界でもまだ出ていません。
トマピケティの国際資本課税やビットコインの様な分散型金融を目指すというアプローチも、まだまだ試験段階です。

第二に日本で行うべき政策がまさに本書で書かれていることの逆であるということです。

この方の目指す公益資本主義というものが、経済的な利害関係のバランスを取るという観点で考えるのであれば

日本の場合、今必要なことはバブル景気の崩壊以後、預金を溜め込んだ何もしない企業や預金をそのままにしている高齢者、そしてそれらに漬け込む政治家こそが、日本社会の癌になりつつあります。

この解決に最も必要な案はインフレと減税を並行して行うことで、彼らの権限を弱めるということです。
それでもインフレが起きなければ最終手段としてベーシックインカムの制定なども考えられますが
まずは所得税と消費税を減らすところからです。
そして社会の癌となりつつある上記を取り除くのです。

それに日本は世界的にもこれまで株主が非常に蔑ろにされてきた側面があり、かつ元々保守的な国民性もある為、全く投資や金融に関するリテラシーが育っていません。そんな中で金融課税をかけるなど、言語道断です。
それこそ本書で批判している短期的な考え方です。

理論上これら税率を全てをゼロに近づければ、購買力は必ず上がります。そして財政赤字が進むので通貨安もおきますが、代わりに景気が良くなり、健全なインフレが起き、その結果労働者は高い賃金を求めます。
その段階で少しずつ、減税部分にブレーキをかける。たったこれだけのことなのですが、何故か誰も進言しません。
その代わりに現金給付を誰に配るか、クーポンでやるか? などという無駄な議論と時間と労働で仕事のための仕事を生み出しています。
私に言わせればこれこそ日本の官僚主義の成れの果てと言わざるを得ません。

今、日本が目指す真のバランス調整とは『小さい政府』であるべきなのですが、これではむしろ格差を悪化させてしまいそうです。

第三に格差があるということが悪であるというこの本の考え方についてです。
格差が大きくなるということには、それにはそれだけ大きな責任が伴います。
まず格差格差と言っても、あくまで資産家の資本大半が株式な訳で、もしリーマンショックなどが起きれば、たちまちにして一夜に資産の大半を失うことになります。
それに無駄なプロジェクトや誤った意思決定を行う会社に投資をし続ければ、1000万だろうが1億円だろうがあっという間に資本経済に飲まれてしまうのです。
金融機関の高速取引で個人投資家が食い物にされてると書かれていますが、それは誤りです。
それは短期であれ長期であれ個人投資家の判断が誤っていることからもたらされた結果に過ぎません。

投資家と起業家の大いなる格差とはつまり、卓越した頭脳と判断力、短期的な市場の動きや政府や金利の動向、投資先のリスク、あらゆることを勘案した上で失敗と成功を繰り返しそれらを何十年もかけて築き上げてきたものに他ならないのです。
そんなものを全くの無意味で無駄なことに使うでしょうか?

ジェフベゾスがやってる宇宙開発事業や、ビルゲイツが行っている。アフリカのマラリアを撲滅する為の慈善事業など、もし同じ資金も渡されたとしても、とても自分には真似できません。
むしろ私には政治家などの予算の配分よりも遥かに効率的で合理的に思えてなりません。
果たして本当に格差は悪なのでしょうか?
私の中ではこの答えはまだ出ていませんが、原氏の意見だけでは私が考えを変えるほどの説得力もありませんでした。
大体所得の低い人はそれ相応に怠惰な側面もあります。この人はそういう地に足のついたボトム層のことも知りません。

まとめます。
恐らく長らくこの方が米国在住であった為に、また日本による低所得者の現場感などを知らない浮世離れした感覚があることが原因なのかもしれません。
つまりこの人はアメリカのウォール街系の金融界隈を知った上で、日本の官僚機構が政経を衰退させている現状を知らない世間知らずなのか
全て知った上であえてこの様な提言を行う悪意あるロビイストなのか
正直言ってどちらかは分かりませんし
どちらであっても構いませんが
しかしいずれにせよどちらも将来の日本の為にならないことは明らかでしょう。
日本の早急な政権交代ならびに小さな政府が望まれます。