危機にすくむ5 無気力と無責任の連鎖: 日本経済新聞


危機にすくむ5 無気力と無責任の連鎖: 日本経済新聞

 

(引用始め)

外務・防衛両省は「政治判断なしには着手できない」という難題を抱える。台湾有事への備えだ。

2万5千人いる邦人の退避について、政府高官は具体的な計画がないと明かす。自衛隊派遣は台湾を自国領と主張する中国が「主権侵害」だと反対する可能性が高い。国交がない台湾とも協議はしにくい。

備えなしで迅速な判断は難しいが「自衛隊を出せない可能性があるから危機になる前に逃げてほしい」と説明するわけでもない。リスクを直視しないままだ。

こうした問題は政治の意思がない限り動かない。日本有事への備えが米軍の出動まで持ちこたえることに主眼を置いたままという課題にも同じことがいえる。

危機に思考停止
戦後の経済成長を支えた官僚は1990年代、業界との癒着や不祥事で批判を受けた。その官僚のお膳立てに乗るだけの政治家のふがいなさも責められた。

冷戦終結バブル崩壊後の変化に対応すべく官僚の情報を基に政治家が判断を下す政治主導の流れが生まれた。それ自体は間違った選択ではなかったはずだ。

ところが四半世紀たち、省庁幹部の人事を内閣人事局が握っても、閣僚は国会答弁を官僚に頼りがちだ。地元会合の挨拶文をつくらせる議員さえいる。こんな政治主導の下で発言権が弱まった官僚はやる気を失い、無責任がまん延する。

国のかじ取りを任されたはずの政治が思考を止め、将来ビジョンを描くはずの官僚は気概を失った。政治も官僚も動かない本末転倒な状況に日本はある。

「なんでも言ってくれ。全ての責任は背負う」と官僚に呼びかけた田中角栄氏は外務省を使って日中国交正常化を実現した。断交する台湾への説明には椎名悦三郎党副総裁を派遣した。

政治家が役人の知恵をくみ取り、責任は引き受ける土壌は失われて久しい。官とのあるべき役割分担を踏まえて政治主導を立て直さなければ、次の危機でも同じことが繰り返される。

(引用終わり)