中国指導部の 「狡猾さ」

今回の新型コロナウィールス騒ぎでも、中国指導部の 「狡猾さ」は、いかんなく発揮されています。 中国政府は、善良な日本政府に「大げさにしないでほ しい」と懇願し、国境を開放させつづけた。 それで、予想通り、日本国内で流行がはじまった。 すると中国政府は、日本からの渡航制限を開始した。


RPEJournal====================================    ロシア政治経済ジャーナルNo.2153 2020/3/3
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習近平の訪日延期へ(^▽^)



全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!

北野です。


最近、世界も日本も「新型コロナウィールス」の話ばかり
ですね。

つまり暗いニュースばかり。

このニュースも「新型コロナウィールスがらみ」ですが、
どちらかというと「明るい」ニュースです。

習近平の訪日が延期になりそうなのです。



<習主席の来日延期検討 政府 新型コロナで準備大幅遅
れ、政治環境厳しく 

毎日新聞 3/1(日) 19:55配信   

日中両政府は4月上旬で調整してきた中国の習近平国家主席
国賓来日を延期する検討に入った。

複数の日本政府関係者が明らかにした。中国に続き、日本
でも新型コロナウイルスの感染が拡大する中、国賓として
来日する環境にふさわしい時期かを慎重に見極める必要が
あると判断した。>


昔からの読者さんは、私がずっと「習近平国賓訪日」に
反対していたことご存知です。

皆さんにも、官邸に意見メールを送るようお願いしてきま
した。

また、パワーゲーム年初の目標で、「習近平国賓訪日阻止」
をあげていました。

どうして、私はそんなに反対なのでしょうか?

昨年11月時点で4つの理由を挙げていました。

今は、1つ減って、3つの理由で反対しています。



▼1番目の理由、日米関係が破壊される



1番目の理由は、中国への過度の接近が、同盟国であるア
メリカとの関係を破壊するからです。

世界は2018年から「米中覇権戦争の時代」に突入している。

トランプは2018年7月、8月、9月と、連続して中国製品へ
の関税を引き上げました。

これで、世界は「米中貿易戦争が始まった」と認識した。

そして、同年10月、ペンス大統領がハドソン研究所で行っ
た「反中演説」後、「米中新冷戦」という用語が世界中で
使われるようになった。


問題は日本政府の動きです。

安倍首相は2015年4月、アメリカにおける議会演説で、以
下のようにいいました。


<米国国民を代表する皆様。

私たちの同盟を、「希望の同盟」と呼びましょう。

米国と日本、力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所
にしていこうではありませんか。

希望の同盟──。

一緒でなら、きっとできます。>


非常に感動的なスピーチで、結果、日米関係は劇的に改善
されました。

しかし、今となっては、「口だけ」と批判されても仕方な
い状況になっています。

というのも、アメリカが中国に「宣戦布告」した直後から
日中関係は「劇的」といっていいほど改善されている。

戦争の最中に、同盟国が敵国に接近する行為を一般的に何
というでしょうか?

そう、「裏切り」です。

日本は中国に急接近することで、同盟国アメリカを「裏切
って」いる。


それで、アメリカの日本への態度も変わり始めた。

トランプは、大統領就任後封印していた「日米同盟破棄論」
や「同盟不平等論」を、再び主張し始めています。

昨年10月22日に行われた天皇陛下の「即位礼正殿の儀」に
は、世界各国から国王、王妃、大統領、首相などが集結し
た。

しかし、アメリカが派遣したのは「運輸長官」だった。

もともとペンス副大統領が出席する予定でしたが、意図的
に「格下」の大臣を送ってきたのでしょう。

日本政府は、アメリカ政府の「シグナル」に気がついて、
中国への接近を止めるべきです。



▼第2の理由、ウイグル問題



2つ目の理由は、「ウイグル問題」。

中国は昔から「人権侵害超大国」でした。

しかし、アメリカはこれまで、この国の人権を問題視する
ことはほとんどなかった。

「チャイナマネー」が欲しかったからでしょう。

しかし、「米中覇権戦争」が始まったので、中国の人権問
題がクローズアップされるようになってきた。

その最たるものが「ウイグル問題」です。

具体的には、中国政府がウイグル人約100万人を強制収容
所に拘束していること。

これは、アメリカの対中「情報戦」に利用されていますが、
「事実」でもある。



<国連、中国政府がウイグル人100万人拘束と批判

BBC NEWS JAPAN 2018年09月11日

中国政府が新疆ウイグル自治区ウイグル人を約100万人、
テロ取り締まりを「口実」に拘束していると、国連は懸念
を強めている。

国連人種差別撤廃委員会は8月末、最大100万人のウイグル
人住民が刑事手続きのないまま、「再教育」を目的とした
強制収容所に入れられているという指摘を報告した。

8月半ばにスイス・ジュネーブで開かれた同委員会の会合
では、信頼できる報告をもとに中国政府が「ウイグル自治
区を、大規模な収容キャンプのようにしてしまった」と委
員たちが批判。>



日本政府は、21世紀の現在、中国でナチスドイツやスター
リン時代のソ連のような人権侵害が行われていることを問
題視すべきです。

天皇陛下が、100万人を拘束する国の独裁者と談笑する映
像が、世界に配信される。

「日本国の天皇は、独裁者と歓談している」と非難される
ことは容易に想像できるでしょう。

そうなった時、天皇陛下にはもちろん何の非もありません。

非難されるべきは、会談を設定した日本政府です。



▼第3の理由、 中国は、天皇陛下を政治利用する



第3の理由は、中国政府が天皇陛下を政治利用するから。

少し過去を振り返ってみる必要があるでしょう。

米中関係は、1970年代にニクソン毛沢東が和解した後
、ずっと良好でした。

毛の後を継いだトウ小平は、日本、アメリカから資金と
技術を思う存分受け取り、中国経済を奇跡的成長に導い
た。

日米は、中国に「金と技術を無尽蔵に恵んでくれる存在
」なので当然、日中、米中関係も良好だった。


しかし、1980年代末から1990年代初めにかけて、2つの
理由で米中関係は悪化します。


1つ目の理由は1989年6月4日に起きた「天安門事件」。

人民解放軍はこの日、デモを武力で鎮圧した。

中国共産党は、犠牲者の数を319人としていますが、英
国政府は1万人以上としています。

これで、中国は国際的に孤立した。


2つ目の理由は、1991年12月の「ソ連崩壊」。

そもそもアメリカが中国と組んだのは、ソ連に対抗す
るためでした。

しかし、その敵は、崩壊した。

それで当然、「なぜ我々は、中国のような一党独裁国家
と仲良くし続ける必要があるのか」という疑問が、アメ
リカ国内から出てきた。


中国は、この苦境をどう克服したのか?

ナイーブな日本政府に接近したのです。

江沢民は1992年4月に訪日し、天皇皇后両陛下(現上皇
皇后両陛下)を中国に招待した。

そして1992年10月、天皇皇后両陛下が訪中された。

これを見た欧米諸国は、「日本は、中国市場を独占するつ
もりではないか」と焦りを感じるようになりました。

中国の賃金水準は当時、日米欧の数十分の一。

将来世界一の市場になることも確実視されていた。

だから、欧米は、「金もうけと人権」の間で揺れていたの
です。

中国は、天皇陛下を政治利用することで、日米欧を分断さ
せ、日本だけでなく欧米の態度を和らげることに成功した。 

これは、私の想像ではありません。

1988年から10年間外交部長(外務大臣)を務めた銭其シン
は、その回顧録の中で、天皇訪中が西側諸国による対中制
裁の突破口であったことを明かしています。

話がここで終われば、「中国に一本取られた」程度でした。

しかし、問題はここからです。


日本と天皇陛下に救われた江沢民は、恩をあだで返した。

どういうことでしょうか?

中国政府は1994年、「愛国主義教育実施要綱」を制定。

1995年から、徹底した「反日教育」を行うようになった。

そして、中国は、世界における「反日プロパガンダ」を
強化していきました。

アイリス・チャンの『ザ・レイプ・オブ・南京』が大ベ
ストセラーになり、「南京大虐殺」が世界中で知られる
ようになったのは1997年のことです。

同年、江沢民真珠湾を訪問し、日本の中国侵略と、真
珠湾攻撃を非難しました。

この動きは一体何でしょうか?

なぜ、日本に救われた江沢民は、「反日教育」「反日
ロパガンダ」を強力に推進したのでしょう?



日本を「悪魔化」するため。



日本を悪魔化すると、米中関係はよくなりいます。


2度の世界大戦の前と戦中、米中関係(当時は中華民国
だった)は、日本という「共通の敵」がいて良好でした。

そして、1970年代から1980年代末までは、ソ連という
「共通の敵」がいて、やはり良好だった。

しかし、天安門事件ソ連崩壊後、中国が米国の主敵に
なる可能性が出てきた。

そこで中国は、「日本を米中共通の敵にしよう」と決意
した。

そして、中国の工作は成功しました。

クリントン時代の過酷な日本バッシングを覚えている人
も多いでしょう。

この件に関連して、アメリカ在住国際政治アナリスト伊
藤貫先生の『中国の「核」が世界を制す』(PHP研究
所)に驚きの話が紹介されています。

伊藤先生は1994年、当時米国防総省の日本部長だったポ
ール・ジアラ氏と会った。

ジアラ氏いわく、



<「クリントン政権の対日政策の基礎は、日本封じ込め
政策だ。>

クリントン政権のアジア政策は米中関係を最重要視す
るものであり、日米同盟は、日本に独立した外交、国防
政策を行う能力を与えないことを主要な任務として運用
されている。>(200ページ)


ここまでをまとめてみましょう。。

・1989年、中国は天安門事件で国際的に孤立した。

・中国は、ナイーブな日本政府に接近する。

・1992年、天皇皇后両陛下(当時)が訪中された。 

・日本が中国市場を独占することを恐れた欧米は態度を
軟化。中国の「天皇利用作戦」は成功した。

天皇陛下を利用して包囲網を突破した中国は、「日本
悪魔化工作」を開始。

・日本は、米中「共通の敵」にされてしまい、日米関係
は悪化。

・逆に米中関係は、大いに改善された。


となります。

こう見ると、私が「習近平の訪日延期」を「明るいニュ
ース」とよぶ理由がご理解いただけるでしょう。

とはいえ、日本が主体的に訪日を延期したのではなく。


「新型コロナウィールス流行でやむを得なく」


というのは、情けないことです。


めでたく「延期」になりそうですが、できれば「中止」
にしていただきたいものです。

今回の新型コロナウィールス騒ぎでも、中国指導部の
「狡猾さ」は、いかんなく発揮されています。


中国政府は、善良な日本政府に「大げさにしないでほ
しい」と懇願し、国境を開放させつづけた。

それで、予想通り、日本国内で流行がはじまった。

すると中国政府は、日本からの渡航制限を開始した。


嗚呼、日本政府のナイーブさは、世界一です。

政府高官の皆さまも、そろそろ習近平政権の本質に気
づくべきでしょう。


習の訪日延期は、めでたいことですが、

是非中止してもらいましょう。